ブログ魂

思慮

2010年09月15日

横浜、横浜、世田谷とまわり、配達ほかの作業を済ませた帰り道、連日の作業で疲れた私は車の運転者に無理を言って近くの駅で降ろしてもらった。
小田急線の和泉多摩川駅で週間新潮を買い、程なくホームに入ってきた各駅停車に乗り込みます。

空いた車内で新潮を読み、代々木上原辺りで顔を上げると、身体に障害を持つ息子さんの腕を抱えて乗り込む老人が私の前に座った。
老人ではあるが、息子と生きる、その一念がそうさせているのか背筋に曲がった所はなく毅然とした佇まいに失礼とは思いましたが、気づかれぬ様、私は時々頭を上げてこの二人を眺めていました。

大江健三郎さんと光君の親子でした。
ノーベル文学賞を受けた大作家と天才作曲家のこの親子は、言葉を交わす事もなく終点の新宿で降りてゆきましたが、信頼とか、壮絶とか、または一途な愛情とか、今まで軽く口に出していた言葉が重い意味を持つ言葉と感じられる、そんな親子でした。

新宿駅から電車を2本乗り継ぎ、その車中で先程の光景が消えない私は駅に着くなり本屋さんに駆け込みます。
店頭にあった白い表紙の本が目に入り、細い字で「お父やんとオジさん」と書いてある、なんとなく今の自分のチブンにあったよな感じのがするだけのその本をレジに運びます。

これ下さい。     ビシッと店員さんの前に差し出します。
タイトルが店員さんに見える様に本を180度回転させ、細やかな芸も入れつつ差し出す私に、そんなことお構いなしにレジを打つという技返しで撃沈し消沈して財布を取り出す私に、店員さんはクールにこう言い放ちました。

「1995円です」

「げっ」

「1995円です」

そんなにするのか、この本は、いててててっ






ホーム | ショッピングカート 特定商取引法表示 | ご利用案内
Powered by おちゃのこネット